ARCHITECTURE

近代建築の五原則

ル・コルビュジエ

蔵田周忠訳

Published in 1927|Archived in March 18th, 2024

Image: “Villa Savoye”, 1926, photo by Valueyou, licensed under CC BY 3.0.

CONTENTS

TEXT

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

本稿は、『ル・コルビュジエ』に掲載されていたル・コルビュジエの「近代建築の五原則」の本文を収録したものである。
収録に際し、①旧字・旧仮名遣い・旧来的な表記(ex. 「米」→「メートル」、「テレス」→「テラス」)は現代的な表記に改め②一部漢字に現在定着をみせている呼称のルビを振り(「角柱」→「ピロティ」、「表面」→「ファサード」)③題名をやはり現在定着をみせている呼称に変えた(「現代建築五項」→「近代建築の五原則」)。
蔵田周忠による注釈3点は割愛した。
底本の行頭の字下げは上げた。

BIBLIOGRAPHY

著者:ル・コルビュジエ(1887 - 1965)訳者:蔵田周忠
題名:近代建築の五原則原題:現代建築五項
初出:1927年
出典:『ル・コルビュジエ』(国際建築協会。1929年。97-99ページ)
Image: “Villa Savoye”, 1926, photo by Valueyou is licensed under CC BY 3.0, trimming by ARCHIVE.

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今日まで相次いで発表された理論的考察は、その基礎を建築場における長年の実際的経験に置いている。
 
理論は正確なる方式表示を求める。
 
そこでは美学的幻想ないしは流行の着こなしなど重きをなす道がない。ただ建築的事実ーー絶対に新しい建築の真義としての建築的事実が住宅から公館にまで求められる。
 
一・ 角柱 ピロティ
科学的方法における問題は、第一にその要素を識別しかつ分解することにある。だから一つの建築について、支える部分とそうでない部分とを分解するのは別段厄介なことではない。
 
以前の基礎の場合は計算の精査なしに、その上に建物が架構され、それぞれ基礎を踏み、壁は個々の 角柱 ピロティ に取り付いたものであつた。で 角柱 ピロティ 基礎のような 角柱 ピロティ の場合は、それに適応する載荷を詳しく計算に入れる。だからそれらの 角柱 ピロティ はひとりでに、家の内容に顧慮なく、一定の間隔に整理される。それから 角柱 ピロティ は地面から上に三メートル四メートル六メールという風に上がって、はじめてその上に第一階ができる。それによって室内は地面の湿気を除いたうえで、地勢の関係上庭つづきの光線と空気とを入れる。すなわち家の下部は開け放しになる、かような階層が陸屋根まで繰り返される。
 
二・屋上庭園
陸屋根は第一に住宅の目的に適合するような利用をしなければならない。屋上テラスとか、屋上庭園とか。
 
他方鉄筋コンクリートは外気の変化に対して相当の庇護を要求する。鉄筋コンクリートを強めるには、屋根コンクリートに多少残った湿気を保たせておくほうがよい。
 
屋上テラスはこの両方の要求を満足させる。(雨に濡れる砂の層はコンクリートブロック面で覆い、溝の部分の芝生と花床の土とは砂の層へ直に繋がる)
 
これらの方法によって、雨水はゆっくり家の中を通る落水管によって外に流れ去る。で湿気は適当に潜んで屋根面に止まることになる。屋上庭園は最も盛んな生物の盛長を示す。しかし灌木でも高さ三ないし四メートル以上のものは植えない。
 
かようにして屋上庭園は家中での最も選ばれた場所になる。一都市に対する屋上庭園の一般的意義は、全面に建て塞がれたる平面の回復である。
 
三・自由なる平面形成
角柱 ピロティ 組織を床と床との間に採用して、これを屋根の下まで通す。間仕切り壁は必要に応じて任意につける。そうして各階が連結されるなら荷持壁がなくって成り立つばかりでなく壁はある任意の力の隔膜に過ぎなくなる。その結果平面形成は絶対に自由であって、現在の問題の中心たる高価なコンクリート構造などを、いくらか軽減する意味で自由な処理が行われる。
 
四・長い窓
角柱 ピロティ は絶対せる床の間に立ち建物の前面は方形な開口になる。それを通して光線と空気とが豊かに入る。
 
窓から柱から柱へ広がるから横長い窓になる、高い窓は風を呼ぶし、同時に不愉快な中柱や付柱形など出てくるが長い方法によると、室は平均に光線を受ける。実験によると横長の採光のものは、同じ室で同じ面積の高い窓のものよりも八倍の強さの光度を示す。
 
建築の歴史は、結局、壁の開口を中心としてその周り回っているのだ。武装したコンクリートはまず長い窓によって最大の採光度を得る。
 
五・ 表面 ファサード 形成の自由
荷持柱の上にかかる床が、バルコンのように持ち出しになって建物を取り巻く姿を表面とする。そうして荷を負わされた性質をなくすれば、室内と別々にしないで、窓を任意の長さにしてみることができるであろう。
 
住宅の窓の長さ十メートルは一公館の二百メートルと同じ位の効果がある。(我々のジュネーヴ国際連盟会館の案の正面はかくして形成の自由をもつ)
 
以上五項の根基は、新らしい美学の基礎を意味する。
 
先の時代の建築が残したものは、字義通りの歴史的教育が我々に何物をも与えなかったよりもなお僅少である。