SCIENCE

未来の世界[インタビュー]

ニコラ・テスラ|聞き手:ジョン・B・ケネディ

岡村皓史

Published in January 30, 1926|Archived in March 14th, 2024

Image: Dickenson V. Alley, “Nikola Tesla, with His Equipment”, December 1899.

CONTENTS

TEXT

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

本稿は、『Collier's Weekly(1926年1月30日号)』掲載のニコラ・テスラへのインタビュー記事の全訳である(スマートフォンの登場を予言したとして、一部で話題になった)。原題は「WHEN WOMAN IS BOSS」だが、収録に際して題名を変えた。
原文の誤記(「his」→「this」)は直して訳し、「mental」の訳出は、米田宏樹「米国における精神薄弱者処遇の展開」(2014年。154ページ)などを参考に「知的な」とした。
ARCHIVE編集部による補足は〔 〕に入れた。
ケネディらの女性論には、現代の通念に照らして不適当な内容が含まれるが、歴史性を鑑み、そのまま訳出した。
ニコラ・テスラの収録は小林尚太郎の示唆による。この場を借りて感謝申し上げる。

BIBLIOGRAPHY

著者:ニコラ・テスラ(1856 - 1943)聞き手:ジョン・B・ケネディ訳者:岡村皓史
題名:未来の世界[インタビュー]原題:WHEN WOMAN IS BOSS
初出:1926年1月30日
出典:『Collier's Weekly(1926年1月30日号)』(Crowell-Collier Publishing Company。1926年) ※WEB上にアーカイブされた2つのテキストを底本とした(URLURL
Image: Dickenson V. Alley, “Nikola Tesla, with His Equipment”, restored by Lošmi is licensed under CC BY 4.0, December 1899.

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女性がボスになるとき
インタビュー:ニコラ・テスラ
聞き手:ジョン・B・ケネディー

「ハチの生活が人類の生活になる」ーー世界的に有名な科学者、ニコラ・テスラが語る。
 
性の新秩序がおとずれるーー女性が優位にたつ秩序だ。ベストのポケットに入るシンプルな機器によってコミュニケーションが瞬時におこなわれる。無線で駆動・誘導された飛行機が無人で空を飛び回る。電線なしに巨大な電力がはるか遠くまで送電される。地震はますます頻発する。温帯は極寒か酷暑に変貌する。テスラによれば、こうした驚くべき局面がそう遠くない未来に起こるという。
 
68歳のニコラ・テスラは、研究室に静かに座りながら、彼自身が変革を促した世界を振り返り、人類の進歩における来るべき変革を予見した。背が高く、細身で禁欲的な彼は、黒っぽい服を身にまとい、落ち着きのあるくぼんだ目で人生を見つめている。栄華のさなかにあって、質素な暮らしを送り、極端きわまる精度で食事を選ぶ。水と牛乳以外の飲み物は決して飲まず、若いときから一度もタバコをたしなまない。
 
エンジニアで発明家だったテスラは、なによりまして哲学者だった。その優れた頭脳が書物で学習した内容を実用化することに執着していたが、それでも人生のドラマから目を逸らしたことはなかった。
 
躍動の一世紀のあいだに何度も驚くべき出来事にでくわしたこの世界は、これから、過去数世代が経験してきたものよりはるかに大きな驚異に目をみはり、息をのむことになる。いまの世界と50年後の世界は、いまの世界と50年前の世界以上に様変わりしているだろう。
 
ニコラ・テスラの発明の才能は、若いころ渡米してまもなく認知された。革命的な電力送電機によって富を築いた彼は、まずニューヨークに、つぎにコロラドに、そしてロングアイランドに工場を建てた。そこでの幾多の実験が、電気科学上の軽重問わないあらゆる進歩をもたらすことになる。ケルビン卿は、(40歳前の)テスラを、電気研究における最大の貢献者だと評した。
 
テスラはこう述べる。「無線システムが開始した当初から、この応用電気の新技術が、ほかのどんな科学的発見よりも人類に大きな利益をもたらすだろうと見ていました。距離というものを、事実上なくしてしまうからです。人類がこうむっている災難のほとんどは、地球の広大さと個人や国家が密に連絡をとりあえないことから生じています。」
 
「無線は、情報の伝達、我々の身体や物質の移送、エネルギーの輸送をつうじて、この密な連絡を実現するのでしょう。」
 
「無線の応用が完璧なものになれば、地球全体が巨大な 頭脳 ブレイン に変わるでしょう。それこそが真実〔の世界のすがた〕なのです。すべてのものは、リアルかつリズミカルな全体の粒子なのですから。距離とは無関係に、瞬時に、相互にコミュニケーションできるようになるでしょう。それだけではありません。テレビや電話をつうじても、何千マイルも離れていても、対面しているのとまったく同じように、相互に見聞きできるようになる。そのための機器は、いまの電話より驚くほどシンプルになるでしょう。ベストのポケットに携帯できるほどに、です。」
 
「わたしたちは、まるでその場に居合わせているかのようにーー大統領就任式、ワールドシリーズの試合、地震による被害や戦闘の恐怖といったーー出来事を見聞きできるようにもなるでしょう。」
 
「無線での電力伝送が商業化されたら、輸送と移送にも革命が起こります。すでに映画が無線によって短距離電送されています。今後、その距離は無際限になるでしょう。「今後」というのは、数年後のことです。画像は有線で伝送されていますーー30年前にはポイントシステムで電信されていましたが。電力の無線送電が一般化したら、こうした手法など、電車にとっての蒸気機関車くらい未熟なものになるでしょう。」
 
女性ーー自由かつ 特権的 リーガル
すべての鉄道は電化され、蒸気機関車は、もしそれを収容できる博物館があるのなら、我々のすぐあとの子孫のために、滑稽な骨董品と化すだろう。
 
「無線エネルギーの最も価値ある応用は、飛行機械の推進になるかもしれません。燃料を搭載せず、いまの飛行機や飛行船の一切の限界からも解放されるのです。ニューヨークからヨーロッパまで数時間ですむでしょう。国境もあらかた消失し、この地球に住まう多様な諸民族が団結し共存するための大きな一歩が踏み出されることになります。無線が可能にするのは、まったくアクセスできないような地域へのエネルギー供給だけではありません。国際的な利害を調和させることによって、政治的な成果もあげられるはずです。 齟齬 そご ではなく、理解を生み出すのです。」
 
「現代の電力伝送システムも、時代遅れになります。いまの発電所の半分ないし四分の一の規模のコンパクトな中継基地が運用の基盤になるでしょうーー空中や海中に設置されるでしょう。無線でエネルギーを伝送するとき、水〔という媒体〕はほとんど損失をもたらさないからです。」
 
テスラ氏は、日常生活における一大変化も予見した。「いまの無線受信機は、さらに単純な機械によって用無しになります。静電気などのありとあらゆる干渉が排除されるため、無数の送信機と受信機が干渉なしに作動します。家庭でとる日刊紙が夜間に『無線で』自宅印刷される、そんなこともかなりありえます。有益な無線電力によって、家庭の管理ーー暖房や照明や家庭内の機械にかかる問題ーーにかかる一切の労働から解放されるわけです。」
 
「飛行機械の発展が自動車のそれを超えると予想しています。フォード氏がこうした進歩に多大なる貢献をしてくれることを期待しているのですが。自動車の駐車問題や商業用・娯楽用の交通のために別個の道路をつくらなければならないという問題も解決されます。ベルト〔コンベヤ〕式の駐車塔が大都市に立ち並び、諸道路も端的に必要性から伸長し、文明が車輪を翼に取り換えるとき、ついに不要になるのです。」
 
「頻発する火山の噴火が物語っている地球の内部熱源は、産業用に利用されるでしょう。20年前に書いた記事で、太陽から大気が受け取る熱の一部を人間が利用するために継続的に変換するプロセスについて解明したのです。わたしが永久機関をやろうとしているなどと専門家たちは早とちりしていましたが。しかし、あれは入念に算出したプロセスです。合理的なのですよ。」
 
テスラ氏は、未来に向けた最も重大な兆しのひとつとして、女性の台頭を挙げている。
 
「訓練された観察者にとって、いや、社会学的な訓練を受けていない人にとっても明らかなことがあります。ここ数世紀、性差別にたいする新しい態度が世界中で生まれていて、それが世界大戦の直前後で急速に活発化したということです。」
 
「性の平等を目指す女性の闘争は、ついに性の新秩序をもたらすでしょう。女性が優位にたつ秩序です。ほんのうわべな現象からも、自らの性の向上を予期している現代の女性は、人類の奥底で、より深く、より強く発酵している何かの表面的な症状にすぎません。」
 
「女性がまずその平等性を、そしてつぎにその優位性を示すことになるのは、男性の浅薄な物理的模倣ではなく、女性の知性の目覚めにおいて、でしょう。」
 
「女性の社会的従属というものは、原初からはじまり数えきれない世代をつうじて、 今日 こんにち では女性も男性同様に備えていることが知られている 知的な メンタル 資質の部分的な退化や、すくなくとも遺伝的な抑制という結果を、必然的に生んでしまっていました。」
 
女王バチが生活の中心に
「しかし、女性の 精神 マインド が、男性の同等の知的な獲得・達成のための全能力を有していることは証明されているわけです。この能力は世代を経るごとに拡大していきます。平均的な女性は、平均的な男性並みによい教育が施されたのち、〔男性〕より優れた教育を受けるようになるでしょう。女性の脳の休眠していた能力が、幾世紀にもわたり休息していた分、一層激しく強烈に活動するよう刺激されるからです。女性は前例を歯牙にもかけず、その進歩で文明を揺さぶることでしょう。」
 
「女性たちによる新たな 活躍 エンデバー 領域の獲得、 指導権 リーダーシップ の段階的な奪取は、 女性的な フェミニン 感受性を鈍化させ、それを最終的に抹消させます。母性本能も抑圧されます。そのため、結婚や母親になることが忌避されて、人類の文明は、ますますハチの文明に近づくことになるでしょうね。」
 
発言の意義は、ハチの経済を支配する原理ーーあらゆる非合理的な動物の生活のなかで、最も高度に組織され、知的にも統制されたシステムーーにある。不死への本能がすべてを支配し、その本能の優越性というものが、母性を神性につくりかえるのだ。
 
すべてのハチの生活の中心は、女王バチである。女王は、世襲によって巣を支配しているわけではない。すべての卵に女王になる可能性が秘められているために、女王は巣を支配するのだ。女王がこの昆虫種の母胎だからだ。
 
我々はただ座って驚くしかない
大規模かつ 脱性化された デセクシャライズド 働きバチ〔すべてメス〕の軍隊の生涯における唯一の目的と幸福は、猛烈な労働である。共産主義の完成形で、社会化・共有化された生活の完成形である。若者も含めたすべてのものが、すべての人の所有と関心の下にあるからだ。
 
女王バチの卵から選ばれた処女バチや王妃バチ、メスバチは、卵を産まない女王バチが巣に失望をもたらす場合に備えて、孵化とともに温存される。他方で、少数で悪習〔オスバチは交尾の時期以外は巣で何もせずにすごしている〕を身につけたオスバチが、女王バチとの交尾に必要だからという理由だけで存在を許されている。」
 
女王バチが結婚飛行をするときが訪れると、オスバチは訓練と管理を課せられる。巣の入口を護衛するオスバチのあいだを通り抜ける女王バチを、オスバチはカサカサ音を立てながら追う。巣の全住民のなかで最も強く、どの臣下よりも強力な女王バチは、空へ飛びだち、螺旋状に上昇していく。それをオスバチたちが追うわけだ。
 
弱り衰えてしまった追跡バチは結婚レースから脱落するが、女王バチのほうはますます高く飛んでいき、はるかかなたの天空の、ただ一匹のオスバチが残るところまで到達する。自然淘汰の厳格な法則によって最強が証明されたオスバチは、女王バチとの交尾にいたる。結婚の瞬間、オスバチの体はバラバラに四散し、死ぬ。
 
受精した女王バチは巣にもどり、何万もの卵をもたらすことになるーーこれがハチたちの未来の都市になる。こうして再生産のサイクルは回りはじめ、巣のなかに満ちた生命は、新世代の誕生をめざして、果てしない労働に集中するわけだ。
 
この神秘的できわめて献身的なハチの文明に、人類を類比させようとすると、想像力がくじかれるが、しかし、種の永続をめざす人類の本能というものが、正常だが誇張され倒錯もしているかたちで生活を支配している様子をかんが みるに、この本能が最終的にハチのようなかたちで表面化する可能性には、女性の知的な進歩がつづくなかでは、アイロニックな正当性があるのだろう。とはいえ、これほどシンプルで科学的に整理された文明にいたる道を堰き止めている人々の習慣・慣習が打ち壊されるには、数世紀はかかるだろうが。
 
こうした事態がアメリカで起きはじめていることを、我々は目の当たりにしている。ウィスコンシン州で、常習犯の不妊化や男性の婚前検査が法律で義務付けられている一方で、数十年前にそれを支持するのが制定法により犯罪だった場所で、いま優生学の教義が大々的に説かれているのだから。
 
有史以来、老人たちは夢を見て、若者たちは幻を見てきた。今日の我々には、科学者が語ることに、ただただ座って驚くしかない。