POETRY

生命の大河

高村光太郎

 

Published in 1955|Archived in January 9th, 2024

Image: NNSA, “Nuclear Weapon Test of Operation Ivy, 1952.

CONTENTS

TEXT

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

原文ママ。
傍点による強調は太字に統一した。

BIBLIOGRAPHY

著者:高村光太郎(1883 - 1956)
題名:生命の大河
初出:1955年12月19日
出典:『定本高村光太郎全詩集』(筑摩書房。1982年。914-916ページ)

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生命の大河ながれてやまず、
一切の矛盾と逆と無駄と悪とをいれて
ごうごうと遠い時間の果つるところへいそぐ。
時間の果つるところ即ちねはん
ねはんは無窮の奥にあり、
またここに在り、
生命の大河この世にニなく美しく、
一切の「物」ことごとく光る。
 
人類の文化いまだ幼く
源始の事態をいくらも出ない。
人は人によって勝とうとし、
すぐれようとし、
すぐれるために自己否定も辞せず、
自己保存の本能のつつましさは
この亡霊に魅入られてすさまじく
億千万の知能とたたかい、
原子にいどんで
人類破滅の寸前にまで到着した。
 
科学は後退をゆるさない。
科学は危険に突入する。
科学は危険をのりこえる。
放射能の故にうしろを向かない。
放射能の克服と
放射能の善用とに
科学は万全をかける。
原子力の解放は
やがて人類の一切を変え
想像しがたい生活図の世紀が来る。
 
そういう世紀のさきぶれが
この正月にちらりと見える。
それを見ながらとそをのむのは
落語のようにおもしろい。
学問芸術倫理の如きは
うずまく生命の大河に一度は没して
そういう世紀の要素となるのが
解脱ねはんの大本道だ。