POETRY

室樂

ジェイムズ・ジョイス

左川ちか訳

Published in 1907|Archived in May 1st, 2024

Image: Daniel Malpica, “Cover of Electronic Chamber Music”, 2018, licensed under CC BY 4.0.

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

原文ママ。
詩情に関わらない「訳者付記」のみ、新字・新仮名遣いに直した。
付録として、英文と新字・新仮名遣いのバージョンを収録した。

BIBLIOGRAPHY

著者:ジェイムズ・ジョイス(1882 - 1941)訳者:左川ちか
題名:室樂原題:Chamber Music
初出:1907年翻訳初出:1932年
出典:『室樂』(椎の木社。1932年8月。4-36ページ)
Image: Daniel Malpica, “Cover of Electronic Chamber Music”, 2018, licensed under CC BY 4.0, trimmed by ARCHIVE.

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室樂


地と空の弦は美しい音樂をつくり出す。柳の集まる川の傍にある弦は。
 
川に沿ふて音樂が響く。愛の神がそこをさまよつてゐるので。彼のマントの上の靑ざめた花。彼の髪の上の暗い木の葉。
 
軟かに彈きならしながら、音樂に熱して彼は頭を曲げ、樂器の上を指はさまよひ。



たそがれはアメシストから深い更に深い靑に變る。ランプはあせた綠の光で街路樹を滿たす。
 
古風なピアノが曲を奏でてゐる。靜かな緩慢な輕い曲を。彼女は黄色いキイの上にかゞみ、彼女の頭は一方へ傾く。
 
臆した考へとかなしい大きな眼と、人々が聽き入る間をさまよふ手とーーたそがれはアメシストの光を更に深い靑に變へる。



總てのものが眠るあのときに、おお孤獨な空の番人よ、あなたは夜風と、朝の靑ざめた門を開けと愛の神に向つて彈いてゐる堅琴のため息をきくか?
 
總てのものが眠るとき、甘い堅琴が愛の神の來るほとりに奏でられ、夜風が夜の明けるまで答唱歌を答へるのをあなたは獨りで聞いてゐるか?
 
奏でよ、見えない堅琴よ愛の神まで。空の中の彼の道はやはらかな光が行き戻りするその時間には輝いてゐる。天上と下界との中にやはらかな美しい音樂を奏でよ。



はづかしげな星が少女のやうに、寂しげに空へ出て來るその時、あなたはねむたげなたそがれのなかで、門のそばで歌つてゐる人をきく。彼の歌は露よりもやはらかい。そして彼はあなたを訪ねてやつて來たのだ。
 
彼が夕暮に呼ぶときはもはや夢想してはいけない。また想ひに耽つてはいけない。私の心を歌つてゐるこの歌手はだれだらうか、と。この愛の歌でさとるがよい。あなたを訪ねて來たのは私だといふことを。



窓に凭れよ、金髪のひとよ、私はあなたの樂しい歌をきいたのだ。
 
本をとぢ私は読むことをやめた、床の上に踊る焔の影を見ながら。
 
私は本を離れた。私は室を出た。あなたがたそがれの中で歌つてゐるので。
 
樂しい歌をうたひ、そしてうたつてゐる。窓に凭れよ、金髪のひとよ。



私はやさしいあの抱擁の中にゐたい(おおそれは甘くそれは美しい)その中では冷たい風が吹くまい。悲しい冷酷さのゆゑに 私はあのやさしい抱擁の中にゐたい。
 
私はあの胸の中に何時までもゐたい(私は靜かに戶を叩き彼女を呼ぶ!)
 
そこでのみ平和は私のものになる。冷酷もかへつてやさしいものだ、いつもあの胸の中にさへゐたら。



私の愛人は輕快な装ひをして林檎の木の中にゐる。そこでは賑やかな風が大勢で走ることを心から好む。
 
賑やかな風が通り過ぎながら若い木の葉を誘惑するために止まるその場所を、私の愛人は靜かにゆく。草の上の彼女の影の方に身を傾けて。
 
そして空が笑つてゐる陸の上の靑いカップになる處を、私の愛人は輕やかにゆく。彼女の着物を優雅な手でかゝげながら。



彼女を飾る春とともに綠の森をゆくのはたれか? 快適な綠の森を歩き更にそれを樂しくするのはたれか?
 
輕やかな足どりを知つてゐる道をふんで陽の光の中を通りすぎるのはたれか? 非常にあどけない樣子をして快い陽の光の中を通りすぎるのはたれか?
 
總ての森林帶の道はやはらかくそして金色の焔で輝いてゐる。誰のために日光のかゞやく森林帶は華やかな着物をつけてゐるのか?
 
私のまことの戀人のために、木等は立派な衣服を着てゐるーーおおそれは若く美しい私のまことの戀人のために。



海の上に踊る五月の風等よ、船跡から船跡へと愉しく輪をつくつて踊り、その間に波が頭上に飛上つて空中にかかつた銀のアアチの花環に飾られるが、あなたは私のほんとうの戀人をどこかで見たか。
 いな! いな!
 五月の風等よ!
戀人がゐない時、戀人は不幸なのだ!


10
輝く帽子と飜る飾り、彼は谷間で歌つてゐる。やつておいで、やつておいで、戀するものはみな。夢は夢みるものに殘せ、歌と笑とにも動かされず、立上らうともせぬ彼等に。
 
飜るリボンをつけて彼は大膽にうたふ。彼の肩の上に野蜂が群れて唸る。そして夢みる時は、夢は終󠄁った。戀人から戀人へとやさしい戀びとよ、私はやつて來た。


11
さようなら、さようなら、さようならをせよ、少女の日々へさようならをせよ。幸福な愛の神がおまへを求めるためにやつて來た。おまへの少女らしい樣子を求めてーーおまへを美しくする帶、おまへの黄色な髪の上の飾り紐を。
 
天使のラツパが彼の名を告げるのを聞いた時はおまへは少女らしい胸の帶を彼に向けて靜かにときはじめ、少女時代のしるしなる飾紐を靜かに解き去る。


12
私の内氣な戀人よ、暈を着た月はおまへの胸にどんな忠告を與へたのか。古風な滿月の愛の神、暈と星を足下に見、道化た托鉢僧の仲間にすぎない哲人の。
 
神のことは氣にかけず、むしろ私の賢さを信ずるがいい。光榮はその眼に輝き、星の光ときらめく。私のものよ、おお、私のものよ! いとしい、傷つきやすいものよ、もう月夜にも霧の夜にもおまへの泣くことはない。


13
たしなみ深く彼女を求めて行き、そして私が來ると告げよ、いつも祝婚歌をうたつてゐる香はしい風よ。おお暗い陸を越えて急ぎ、海上を走れ。海と陸は私達を離すことがあつてはならぬから。戀人と私を。
 
さあ、お願ひだ。たしなみ深く、風よ、行つて、彼女の小さな庭を訪れ、窓邊で歌つてくれ。歌ってくれ。婚禮の風が吹いてゐる。今は愛の眞盛り、まもなくあなたのほんとうの戀人はあなたの處へ來る。まもなく、おおまもなく、と。


14
愛するもの、美しいものよ。起き出でよ、起き出でよ! 私の唇にも目にも夜露が下りてゐる。
 
香はしい風が溜息の曲を奏でてゐる。起き出でよ、起き出でよ、愛するもの、私の美しいひとよ!
 
私は杉の木のそばで待つてゐる。わが妹、わが戀人よ。鳩のやうなまつ白な胸よ、私の胸こそはあなたのねどこなのだ。
 
靑ざめた露が私の頭の上にヴエイルのやうに降る。やさしいものよ私のやさしい鳩よ、起き出でよ、起き出でよ!


15
露にぬれた夢から、戀の深いねむりから、死から、私の魂よ、めざめよ。今こそ見よ! 木々の葉は朝に目覺まされて溜息に充ちてゐる。
 
東方は次第に明けて來て、そこから靜かにもえる焔があらはれる。すべての灰󠄁色と金色の蜘蛛の巣のヴエイルをふるはせながら。
 
その間に、やさしく、靜かに、ひそやかに、朝の花の鐘等がゆすぶられる。仙女達のたくみな合唱(おお無數の!)が聞えはじめる。


16
おおいま谷間は涼しい、そこへ戀人よ私達は行かう、かつて愛の神の現れたそこで多くの聲の歌ふのが聞えるから。
 
そしてあなたは聞かないか鴉の呼ぶのを、私達を彼方へと呼ぶのを。おお谷間は涼しく樂しい、そこで戀人よ私は休まう。


17
あなたの聲が私の傍にあったため私は彼に苦痛を與へた。私の手の中にあなたの手を再び握つたために。
 
それを償ふことの出來る何の言葉もまた何の形もないーーかつて私の友であつた彼はいま私にとつて見知らぬ人だ。


18
おお、やさしいひとよ、あなたの戀人の語るのを聞け。友等が彼を裏切る時人は悲しむのだ。
 
なぜならば、その時彼は知らねばならぬから、友達が不信なことを。また彼等の言葉が一握りの灰󠄁になったことを。
 
併し一人の乙女が彼の方へ靜かに寄るだらう、そして彼を愛の道で靜かに求めるだらう。
 
彼の手は彼女の滑らかな圓い胸の下にある。それによつて悲しみをもつ人にやすらかさが來る。


19
總ての人々はあなたの前で僞つてさはぐのを好むからと云つて悲しむな。戀人よ再び平和であれ。ーー彼等にあなたを恥しめることが出來るか?
 
彼等はあらゆる涙よりもなほ多く悲しい。彼等の生活は一條の絕えない溜息として高まる。彼等の涙に傲慢に答へよ。彼等が否定するとおなじく否定せよ。


20
暗い松の林のなかで眞晝に深い涼しい影の中で私達は横はつてゐたい。
 
どんなに甘いだらう、そこに横はるのは。また接吻するのは甘いことだらう。大きな松の林が廊下のやうになつてゐる其處で。
 
おまへの接吻が降つて來る。髪の毛のやはらかな群がりの中の接吻は更にたのしい。
 
おお、松の林の方へ眞晝に今私とともに行かう、やさしい戀人よあちらへ。


21
榮譽を失ひまた友となる魂も見出さない彼は輕蔑し憤怒しつつ彼の敵等のあひだで、古風な高貴をたもつてゐる。その高い交はりがたい者ーー彼の戀人のみが彼の仲間である。


22
そのやうに甘く私を虜にするものを思へば、愛する者よ、私の魂は消え失せさうだーーやさしさを私に求め、愛を私に求めるやはらかな腕。ああ、その腕がいつか私を其處にしつかりと抱くことが出來るなら、歡んで私は一人の囚人になるのに!
 
愛する者よ、交された腕のなかで愛によつて震へるその夜は私を誘惑する。そこでは少しも私達を驚かせるものはなく、ただ眠りはもつと夢の多い眠りへつながり、魂と魂がとぢこめられて横たはるばかり。


23
私の心臟の近くで羽搏をするこの心臟は私の希望と總ての私の財寶である。私達が別々にはなれた時は不幸で、接吻と接吻の間では幸福だ。私の希望と總ての私の財寶 ーーさうだ! ーーそしてすべての私の幸福。
 
そこに、苔の生えた巢の中で鶺鴒が色々の財寶を守つてゐるやうに、私の眼が泣くことを覺える以前に私の持つてゐたこれらの財寶を私はしまっておいた。たとへ戀は短い間しか續かないにしても、私達も彼らのやうに、賢くはないだらうか。


24
靜かに彼女は梳つてゐる。彼女の長い髪の毛を。靜かにそしてしとやかに、樣々の美しい唄をうたひながら。
 
太陽は柳の葉の中に、そして斑らな草の上に輝く。その間も彼女は梳つてゐる、姿見の前で彼女の長い髪の毛を。
 
私は願ふ梳るのをやめるやうに、あなたの長い髪の毛を梳るのを。なぜなら私は美しい唄の中にかくれた魔法のことをきいてゐるから。
 
それは此處で歩いたり停つたりする戀人に、いくつものやさしい唄といくつもの投げやりを持つ全く美しいものとなつて現れる。


25
輕やかに來、また輕やかにゆけ、たとへ心臟がおまへに不幸を豫覺させようとも、谷と多くの燒け落ちた太陽のあるあたり、山の精はおまへの哄笑を走らせ、無禮な山の空氣がおまへの飜る髪の毛全部に漣をたてるまで。
 
輕やかに、輕やかに、ーーそのやうにして。夕暮の時刻に下方の谷を包んでゐる雲らは最も賤しい侍者である。心臟が最も重い時は、歌であらはされる愛と笑ひだ。


26
やさしいひとよ、おまへは夜の七絃琴に聽き入る。やさしい婦人よ、一つの豫言する耳よ。あの靜かな歡びの合唱の中に、何の音がおまへの心臟をこはがらせるのか? 北國の灰󠄁色の沙漠からほとばしり出てゐる河の音のやうに思はれたのか?
 
おまへのその氣分は、おお臆病な者よ、それは彼の與えたものだ、もしもおまへがそれをよく考へ直してみれば。魔術を使ふやうな不氣味な時間に我々に氣狂ひ物語を語った彼ーーそしてそれはみな彼がパアチアスやポリンシエツドの中から讀んだ不思議な名前のせゐだ。


27
たとへおまへのミドリダテスなる私が毒箭を防ぐやうに造られてゐようとも、でもなほおまへの心臟の魔力を知るために、おまへは氣づかない間に私を抱きしめなければならぬ。さうすれば私はただ降服して、おまへの優しさの悪意を自白するばかりだ。
 
優雅な古風な言葉のためには、愛する者よ、私の唇はあまりにも賢く蠟づけられる。また私は、我々の笛を吹く詩人が嚴めしくその賞讃をする戀も今までに知らない。また非常にわづかな虚僞もないやうな戀も私は今までに知らなかった。


28
やさしい婦人よ、戀の終󠄁りについての悲しい歌をうたつてはいけない。悲しみを傍へ押しやつてそして過ぎてゆく戀がいかに滿ち足りてゐるかを歌へ。
 
死んだ戀人等の深い永い眠りについてうたへ。そして墓の中ですべての戀はどうしてねむるかを。戀も今はもの憂い。


29
戀人よ、なぜあなたはそのやうに私をとり扱ふのだろうか? 靜かに私を責めるやさしい眼、あなたはなほ美しい。
ーー併しおおあなたの美しさはどんなに衣裳をつけてゐることか? あなたの眼の透明な鏡をとほして、接吻から接吻への軟い溜息をとほして、孤獨な風らは戀の居る影の多い庭に叫びながらうちあたる。
 
まもなく戀は解け去るだらう、我々を越えて荒い風が吹く時にーー併しあなた、親しい戀人よ、あまりに私に親しい人、ああ! なぜあなたはそのやうに私をとり扱ふのだらうか?


30
過ぎ去つた昔に、我々の處に愛の神がやつて來た。一人が黄昏に臆病らしく彈いて居り、そして一人は怖ろしさうに傍に立つてゐた時に。なぜなら最初戀はすべてを恐れたから。
 
我々は慎重な戀人だった。その甘い時間を幾度かもつた戀は去つた我々が進むだらうと思はれる道を今最後に我々は歡んで迎へる。


31
おお、それはドニイカアニイのそばであつた。蝙蝠が木から木へ飛ぶ頃戀人と私が一緒に歩いたのは。そして彼女が私にいつた言葉は甘かつた。
 
夏の風が私のかたはらをさはがしい音をたてて進んだーーおお、幸福さうに!ーーしかし夏の呼吸よりも軟いるのは彼女があたへた接吻であつた。


32
終󠄁日雨が降つてゐる、おお、果實のみのつた樹等の間へおいで。葉等は記憶の道の上に推積してゐる。
 
記憶の道にちよつとの間停まつて我々は別れよう。來なさい、戀人よ、其處では私はあなたの心を動かすかも知れぬ。


33
いま、おお今、かつて戀が甘い音樂を奏でたこの灰󠄁色の國の中を、二人は手を携へて逍遙はう、古い友情󠄁のために耐へながら、そしてかくの如く終󠄁をつげた我々の戀が華麗であつたのを悲しむこともなく赤と黄の着物を着た小さな奴が、木を叩きそして叩いてゐる。それから我々の孤獨のまはりぢうを風はたのしげに口笛を吹いてゐる。樹の葉等ーー彼等は少しも溜息をつかない、秋每に年が彼等をとり去っても。
 
いま、おお今、我々は最早聞かない、律詩も、圓舞曲も! しかもなほ我々は接吻しよう。戀人よ、日の暮れに別れをつげる前は悲しむな戀人よ、何事をもーーかくて年は年に重つてゆく。


34
さあ眠れ、さあ眠れ、おおお前、落着きのないものよ!(さあ眠れ)と呼んでゐる聲が私の心の中できこゑる。
 
冬の聲が扉口できこゑる。(もう眠ってはならぬ)と、冬の眠りは呼んでゐる。
 
私の接吻はいまお前の心に平和と靜けさをあたへるだらうーーさあ安らかに眠れ、おお落着きのないものよ。


35
終󠄁日私は水の音の歎くのをきく、獨りで飛んでゆく海鳥が波の單調な音に合はせて鳴る風を聞くときのやうに悲しく。
 
私の行く處には、灰󠄁色の風、冷たい風が吹いてゐる。私は遙か下方で波の音をきく。每日、每夜、私はきく。あちこちと流れるその音を。


36
私はきく、軍勢が國を襲撃し、膝のあたりに泡だてながら馬の水に飛び込む音を。傲然と、黑い甲冑を着て、彼等の背後に立ち、戰車の御者等は手綱を放し、鞭を打ちならしてゐる。
 
彼等は闇の奥へ高く名乗りをあげる。私は彼らの旋回する哄笑を遠くできく時、睡眠の中で呻く。彼らは夢の暗闇を破る、一のまばゆい焔で、 鐡床 かなしき のやうに心臟の上で激しく音をうちならしながら。
 
彼らは勝ち誇り、長い綠の髪の毛をなびかせながら來る。彼らは海からやつて來る。そして海邊をわめき走る。私の心臟よ、そのやうに絕望して、もう睿智を失ったのか? 私の戀人よ、戀人よ、戀人よ、なぜあなたは私を獨り殘して去つたのか?

訳者付記
 
一、原詩の韻を放棄し、比較的正しい散文調たらしめるにつとめた。
二、従って各スタンザ每に書き続けの形式を執った。
三、テキストはエゴイスト版を使用した。

ENGLISH TEXT
 

I

Strings in the earth and air
    Make music sweet;
Strings by the river where
    The willows meet.
 
There’s music along the river
    For Love wanders there,
Pale flowers on his mantle,
    Dark leaves on his hair.
 
All softly playing,
    With head to the music bent,
And fingers straying
    Upon an instrument.
 

II

The twilight turns from amethyst
    To deep and deeper blue,
The lamp fills with a pale green glow
    The trees of the avenue.
 
The old piano plays an air,
    Sedate and slow and gay;
She bends upon the yellow keys,
    Her head inclines this way.
 
Shy thought and grave wide eyes and hands
    That wander as they list—
The twilight turns to darker blue
    With lights of amethyst.
 

III

At that hour when all things have repose,
    O lonely watcher of the skies,
    Do you hear the night wind and the sighs
Of harps playing unto Love to unclose
    The pale gates of sunrise?
 
When all things repose, do you alone
    Awake to hear the sweet harps play
    To Love before him on his way,
And the night wind answering in antiphon
    Till night is overgone?
 
Play on, invisible harps, unto Love,
    Whose way in heaven is aglow
    At that hour when soft lights come and go,
Soft sweet music in the air above
    And in the earth below.
 

IV

When the shy star goes forth in heaven
    All maidenly, disconsolate,
Hear you amid the drowsy even
    One who is singing by your gate.
His song is softer than the dew
    And he is come to visit you.
 
O bend no more in revery
    When he at eventide is calling,
Nor muse: Who may this singer be
    Whose song about my heart is falling?
Know you by this, the lover’s chant,
    ’Tis I that am your visitant.
 

V

Lean out of the window,
    Goldenhair,
I hear you singing
    A merry air.
 
My book was closed,
    I read no more,
Watching the fire dance
    On the floor.
 
I have left my book,
    I have left my room,
For I heard you singing
    Through the gloom.
 
Singing and singing
    A merry air,
Lean out of the window,
    Goldenhair.
 

VI

I would in that sweet bosom be
    (O sweet it is and fair it is!)
Where no rude wind might visit me.
    Because of sad austerities
I would in that sweet bosom be.
 
I would be ever in that heart
    (O soft I knock and soft entreat her!)
Where only peace might be my part.
    Austerities were all the sweeter
So I were ever in that heart.
 

VII

My love is in a light attire
    Among the apple-trees,
Where the gay winds do most desire
    To run in companies.
 
There, where the gay winds stay to woo
    The young leaves as they pass,
My love goes slowly, bending to
    Her shadow on the grass;
 
And where the sky’s a pale blue cup
    Over the laughing land,
My love goes lightly, holding up
    Her dress with dainty hand.
 

VIII

Who goes amid the green wood
    With springtide all adorning her?
Who goes amid the merry green wood
    To make it merrier?
 
Who passes in the sunlight
    By ways that know the light footfall?
Who passes in the sweet sunlight
    With mien so virginal?
 
The ways of all the woodland
    Gleam with a soft and golden fire—
For whom does all the sunny woodland
    Carry so brave attire?
 
O, it is for my true love
    The woods their rich apparel wear—
O, it is for my own true love,
    That is so young and fair.
 

IX

Winds of May, that dance on the sea,
Dancing a ring-around in glee
From furrow to furrow, while overhead
The foam flies up to be garlanded,
In silvery arches spanning the air,
Saw you my true love anywhere?
    Welladay! Welladay!
    For the winds of May!
Love is unhappy when love is away!
 

X

Bright cap and streamers,
    He sings in the hollow:
    Come follow, come follow,
        All you that love.
Leave dreams to the dreamers
    That will not after,
    That song and laughter
        Do nothing move.
 
With ribbons streaming
    He sings the bolder;
    In troop at his shoulder
        The wild bees hum.
And the time of dreaming
    Dreams is over—
    As lover to lover,
        Sweetheart, I come.
 

XI

Bid adieu, adieu, adieu,
    Bid adieu to girlish days,
Happy Love is come to woo
    Thee and woo thy girlish ways—
The zone that doth become thee fair,
The snood upon thy yellow hair,
 
When thou hast heard his name upon
    The bugles of the cherubim
Begin thou softly to unzone
    Thy girlish bosom unto him
And softly to undo the snood
That is the sign of maidenhood.
 

XII

What counsel has the hooded moon
    Put in thy heart, my shyly sweet,
Of Love in ancient plenilune,
    Glory and stars beneath his feet—
A sage that is but kith and kin
With the comedian Capuchin?
 
Believe me rather that am wise
    In disregard of the divine,
A glory kindles in those eyes
    Trembles to starlight. Mine, O Mine!
No more be tears in moon or mist
For thee, sweet sentimentalist.
 

XIII

Go seek her out all courteously,
    And say I come,
Wind of spices whose song is ever
    Epithalamium.
O, hurry over the dark lands
    And run upon the sea
For seas and lands shall not divide us,
    My love and me.
 
Now, wind, of your good courtesy
    I pray you go,
And come into her little garden
    And sing at her window;
Singing: The bridal wind is blowing
    For Love is at his noon;
And soon will your true love be with you,
    Soon, O soon.
 

XIV

My dove, my beautiful one,
    Arise, arise!
    The night-dew lies
Upon my lips and eyes.
 
The odorous winds are weaving
    A music of sighs:
    Arise, arise,
My dove, my beautiful one!
 
I wait by the cedar tree,
    My sister, my love,
    White breast of the dove,
My breast shall be your bed.
 
The pale dew lies
    Like a veil on my head.
    My fair one, my fair dove,
Arise, arise!
 

XV

From dewy dreams, my soul, arise,
    From love’s deep slumber and from death,
For lo! the trees are full of sighs
    Whose leaves the morn admonisheth.
 
Eastward the gradual dawn prevails
    Where softly-burning fires appear,
Making to tremble all those veils
    Of grey and golden gossamer.
 
While sweetly, gently, secretly,
    The flowery bells of morn are stirred
And the wise choirs of faery
    Begin (innumerous!) to be heard.
 

XVI

O cool is the valley now
    And there, love, will we go
For many a choir is singing now
    Where Love did sometime go.
And hear you not the thrushes calling,
    Calling us away?
O cool and pleasant is the valley
    And there, love, will we stay.
 

XVII

Because your voice was at my side
    I gave him pain,
Because within my hand I held
    Your hand again.
 
There is no word nor any sign
    Can make amend—
He is a stranger to me now
    Who was my friend.
 

XVIII

O sweetheart, hear you
    Your lover’s tale;
A man shall have sorrow
    When friends him fail.
 
For he shall know then
    Friends be untrue
And a little ashes
    Their words come to.
 
But one unto him
    Will softly move
And softly woo him
    In ways of love.
 
His hand is under
    Her smooth round breast;
So he who has sorrow
    Shall have rest.
 

XIX

Be not sad because all men
    Prefer a lying clamour before you:
Sweetheart, be at peace again—
    Can they dishonour you?
 
They are sadder than all tears;
    Their lives ascend as a continual sigh.
Proudly answer to their tears:
    As they deny, deny.
 

XX

In the dark pine-wood
    I would we lay,
In deep cool shadow
    At noon of day.
 
How sweet to lie there,
    Sweet to kiss,
Where the great pine-forest
    Enaisled is!
 
Thy kiss descending
    Sweeter were
With a soft tumult
    Of thy hair.
 
O, unto the pine-wood
    At noon of day
Come with me now,
    Sweet love, away.
 

XXI

He who hath glory lost, nor hath
    Found any soul to fellow his,
Among his foes in scorn and wrath
    Holding to ancient nobleness,
That high unconsortable one—
His love is his companion.
 

XXII

Of that so sweet imprisonment
    My soul, dearest, is fain—
Soft arms that woo me to relent
    And woo me to detain.
Ah, could they ever hold me there
Gladly were I a prisoner!
 
Dearest, through interwoven arms
    By love made tremulous,
That night allures me where alarms
    Nowise may trouble us;
But sleep to dreamier sleep be wed
Where soul with soul lies prisoned.
 

XXIII

This heart that flutters near my heart
    My hope and all my riches is,
Unhappy when we draw apart
    And happy between kiss and kiss;
My hope and all my riches—yes!—
And all my happiness.
 
For there, as in some mossy nest
    The wrens will divers treasures keep,
I laid those treasures I possessed
    Ere that mine eyes had learned to weep.
Shall we not be as wise as they
Though love live but a day?
 

XXIV

Silently she’s combing,
    Combing her long hair,
Silently and graciously,
    With many a pretty air.
 
The sun is in the willow leaves
    And on the dappled grass,
And still she’s combing her long hair
    Before the looking-glass.
 
I pray you, cease to comb out,
    Comb out your long hair,
For I have heard of witchery
    Under a pretty air,
 
That makes as one thing to the lover
    Staying and going hence,
All fair, with many a pretty air
    And many a negligence.
 

XXV

Lightly come or lightly go:
    Though thy heart presage thee woe,
Vales and many a wasted sun,
    Oread let thy laughter run
Till the irreverent mountain air
Ripple all thy flying hair.
 
Lightly, lightly—ever so:
    Clouds that wrap the vales below
At the hour of evenstar
    Lowliest attendants are;
Love and laughter song-confessed
When the heart is heaviest.
 

XXVI

Thou leanest to the shell of night,
    Dear lady, a divining ear.
In that soft choiring of delight
    What sound hath made thy heart to fear?
Seemed it of rivers rushing forth
From the grey deserts of the north?
 
    That mood of thine, O timorous,
Is his, if thou but scan it well,
    Who a mad tale bequeaths to us
At ghosting hour conjurable—
    And all for some strange name he read
    In Purchas or in Holinshed.
 

XXVII

Though I thy Mithridates were,
    Framed to defy the poison-dart,
Yet must thou fold me unaware
    To know the rapture of thy heart,
And I but render and confess
The malice of thy tenderness.
 
For elegant and antique phrase,
    Dearest, my lips wax all too wise;
Nor have I known a love whose praise
    Our piping poets solemnize,
Neither a love where may not be
Ever so little falsity.
 

XXVIII

Gentle lady, do not sing
    Sad songs about the end of love;
Lay aside sadness and sing
    How love that passes is enough.
 
Sing about the long deep sleep
    Of lovers that are dead, and how
In the grave all love shall sleep:
    Love is aweary now.
 

XXIX

Dear heart, why will you use me so?
    Dear eyes that gently me upbraid,
Still are you beautiful—but O,
    How is your beauty raimented!
 
Through the clear mirror of your eyes,
    Through the soft sigh of kiss to kiss,
Desolate winds assail with cries
    The shadowy garden where love is.
 
And soon shall love dissolved be
    When over us the wild winds blow—
But you, dear love, too dear to me,
    Alas! why will you use me so?
 

XXX

Love came to us in time gone by
    When one at twilight shyly played
And one in fear was standing nigh—
    For Love at first is all afraid.
 
We were grave lovers. Love is past
    That had his sweet hours many a one;
Welcome to us now at the last
    The ways that we shall go upon.
 

XXXI

O, it was out by Donnycarney
    When the bat flew from tree to tree
My love and I did walk together;
    And sweet were the words she said to me.
 
Along with us the summer wind
    Went murmuring—O, happily!—
But softer than the breath of summer
    Was the kiss she gave to me.
 

XXXII

Rain has fallen all the day.
    O come among the laden trees:
The leaves lie thick upon the way
    Of memories.
 
Staying a little by the way
    Of memories shall we depart.
Come, my beloved, where I may
    Speak to your heart.
 

XXXIII

Now, O now, in this brown land
    Where Love did so sweet music make
We two shall wander, hand in hand,
    Forbearing for old friendship’ sake,
Nor grieve because our love was gay
Which now is ended in this way.
 
A rogue in red and yellow dress
    Is knocking, knocking at the tree;
And all around our loneliness
    The wind is whistling merrily.
The leaves—they do not sigh at all
When the year takes them in the fall.
 
Now, O now, we hear no more
    The vilanelle and roundelay!
Yet will we kiss, sweetheart, before
    We take sad leave at close of day.
Grieve not, sweetheart, for anything—
The year, the year is gathering.
 

XXXIV

Sleep now, O sleep now,
    O you unquiet heart!
A voice crying “Sleep now”
    Is heard in my heart.
 
The voice of the winter
    Is heard at the door.
O sleep, for the winter
    Is crying “Sleep no more.”
 
My kiss will give peace now
    And quiet to your heart—
Sleep on in peace now,
    O you unquiet heart!
 

XXXV

All day I hear the noise of waters
    Making moan,
Sad as the sea-bird is, when going
    Forth alone,
He hears the winds cry to the water’s
    Monotone.
 
The grey winds, the cold winds are blowing
    Where I go.
I hear the noise of many waters
    Far below.
All day, all night, I hear them flowing
    To and fro.
 

XXXVI

I hear an army charging upon the land,
And the thunder of horses plunging, foam about their knees:
Arrogant, in black armour, behind them stand,
Disdaining the reins, with fluttering whips, the charioteers.
 
They cry unto the night their battle-name:
I moan in sleep when I hear afar their whirling laughter.
They cleave the gloom of dreams, a blinding flame,
Clanging, clanging upon the heart as upon an anvil.
 
They come shaking in triumph their long, green hair:
They come out of the sea and run shouting by the shore.
My heart, have you no wisdom thus to despair?
My love, my love, my love, why have you left me alone?

室楽(新字・新仮名遣い)


地と空の弦は美しい音楽をつくり出す。柳の集まる川の傍にある弦は。
 
川に沿って音楽が響く。愛の神がそこをさまよっているので。彼のマントの上の青ざめた花。彼の髪の上の暗い木の葉。
 
軟らかに弾きならしながら、音楽に熱して彼は頭を曲げ、楽器の上を指はさまよい。



たそがれはアメジストから深い更に深い青に変わる。ランプはあせた緑の光で街路樹を満たす。
 
古風なピアノが曲を奏でている。静かな緩慢な軽い曲を。彼女は黄色いキーの上にかがみ、彼女の頭は一方へ傾く。
 
臆した考えとかなしい大きな眼と、人々が聴き入る間をさまよう手とーーたそがれはアメジストの光を更に深い青に変える。



全てのものが眠るあのときに、おお孤独な空の番人よ、あなたは夜風と、朝の青ざめた門を開けと愛の神に向かって弾いている堅琴のため息をきくか?
 
全てのものが眠るとき、甘い堅琴が愛の神の来るほとりに奏でられ、夜風が夜の明けるまで答唱歌を答えるのをあなたは独りで聞いているか?
 
奏でよ、見えない堅琴よ愛の神まで。空の中の彼の道はやわらかな光が行き戻りするその時間には輝いている。天上と下界との中にやわらかな美しい音楽を奏でよ。



はずかしげな星が少女のように、寂しげに空へ出て来るその時、あなたはねむたげなたそがれのなかで、門のそばで歌っている人をきく。彼の歌は露よりもやわらかい。そして彼はあなたを訪ねてやって来たのだ。
 
彼が夕暮に呼ぶときはもはや夢想してはいけない。また想いに耽ってはいけない。私の心を歌っているこの歌手はだれだろうか、と。この愛の歌でさとるがよい。あなたを訪ねて来たのは私だということを。



窓に倒れよ、金髪のひとよ、私はあなたの楽しい歌をきいたのだ。
 
本をとじ私は読むことをやめた、床の上に踊る焔の影を見ながら。
 
私は本を離れた。私は室を出た。あなたがたそがれの中で歌っているので。
 
楽しい歌をうたい、そしてうたっている。窓に倒れよ、金髪のひとよ。



私はやさしいあの抱擁の中にいたい(おおそれは甘くそれは美しい)その中では冷たい風が吹くまい。悲しい冷酷さのゆえに 私はあのやさしい抱擁の中にいたい。
 
私はあの胸の中に何時までもいたい(私は静かに戶を叩き彼女を呼ぶ!)
 
そこでのみ平和は私のものになる。冷酷もかえってやさしいものだ、いつもあの胸の中にさえいたら。



私の愛人は軽快な装いをして林檎の木の中にいる。そこでは賑やかな風が大勢で走ることを心から好む。
 
賑やかな風が通り過ぎながら若い木の葉を誘惑するために止まるその場所を、私の愛人は静かにゆく。草の上の彼女の影の方に身を傾けて。
 
そして空が笑っている陸の上の青いカップになる所を、私の愛人は軽やかにゆく。彼女の着物を優雅な手でかかげながら。



彼女を飾る春とともに緑の森をゆくのはだれか? 快適な緑の森を歩き更にそれを楽しくするのはだれか?
 
軽やかな足どりを知っている道をふんで陽の光の中を通りすぎるのはだれか? 非常にあどけない様子をして快い陽の光の中を通りすぎるのはだれか?
 
全ての森林帯の道はやわらかくそして金色の焔で輝いている。誰のために日光のかがやく森林帯は華やかな着物をつけているのか?
 
私のまことの恋人のために、木等は立派な衣服を着ているーーおおそれは若く美しい私のまことの恋人のために。



海の上に踊る五月の風等よ、船跡から船跡へと愉しく輪をつくって踊り、その間に波が頭上に飛上がって空中にかかった銀のアーチの花環に飾られるが、あなたは私のほんとうの恋人をどこかで見たか。
 いな! いな!
 五月の風等よ!
恋人がいない時、恋人は不幸なのだ!


10
輝く帽子と翻る飾り、彼は谷間で歌っている。やっておいで、やっておいで、恋するものはみな。夢は夢みるものに残せ、歌と笑とにも動かされず、立上ろうともせぬ彼等に。
 
翻るリボンをつけて彼は大胆にうたう。彼の肩の上に野蜂が群れて唸る。そして夢みる時は、夢は終わった。恋人から恋人へとやさしい恋びとよ、私はやって来た。


11
さようなら、さようなら、さようならをせよ、少女の日々へさようならをせよ。幸福な愛の神がおまえを求めるためにやって来た。おまえの少女らしい樣子を求めてーーおまえを美しくする帯、おまえの黄色な髪の上の飾り紐を。
 
天使のラッパが彼の名を告げるのを聞いた時はおまえは少女らしい胸の帯を彼に向けて静かにときはじめ、少女時代のしるしなる飾紐を静かに解き去る。


12
私の内気な恋人よ、暈を着た月はおまえの胸にどんな忠告を与えたのか。古風な満月の愛の神、暈と星を足下に見、道化た托鉢僧の仲間にすぎない哲人の。
 
神のことは気にかけず、むしろ私の賢さを信ずるがいい。光栄はその眼に輝き、星の光ときらめく。私のものよ、おお、私のものよ! いとしい、傷つきやすいものよ、もう月夜にも霧の夜にもおまえの泣くことはない。


13
たしなみ深く彼女を求めて行き、そして私が来ると告げよ、いつも祝婚歌をうたっている香しい風よ。おお暗い陸を越えて急ぎ、海上を走れ。海と陸は私達を離すことがあってはならぬから。恋人と私を。
 
さあ、お願いだ。たしなみ深く、風よ、行って、彼女の小さな庭を訪れ、窓辺で歌ってくれ。歌ってくれ。婚礼の風が吹いている。今は愛の真盛り、まもなくあなたのほんとうの恋人はあなたの所へ来る。まもなく、おおまもなく、と。


14
愛するもの、美しいものよ。起き出でよ、起き出でよ! 私の唇にも目にも夜露が下りている。
 
香しい風が溜息の曲を奏でている。起き出でよ、起き出でよ、愛するもの、私の美しいひとよ!
 
私は杉の木のそばで待っている。わが妹、わが恋人よ。鳩のようなまっ白な胸よ、私の胸こそはあなたのねどこなのだ。
 
青ざめた露が私の頭の上にヴェールのように降る。やさしいものよ私のやさしい鳩よ、起き出でよ、起き出でよ!


15
露にぬれた夢から、恋の深いねむりから、死から、私の魂よ、めざめよ。今こそ見よ! 木々の葉は朝に目覚まされて溜息に充ちている。
 
東方は次第に明けて来て、そこから静かにもえる焔があらわれる。すべての灰色と金色の蜘蛛の巣のヴェールをふるわせながら。
 
その間に、やさしく、静かに、ひそやかに、朝の花の鐘等がゆすぶられる。仙女達のたくみな合唱(おお無数の!)が聞こえはじめる。


16
おおいま谷間は涼しい、そこへ恋人よ私達は行こう、かって愛の神の現れたそこで多くの声の歌うのが聞えるから。
 
そしてあなたは聞かないか鴉の呼ぶのを、私達を彼方へと呼ぶのを。おお谷間は涼しく楽しい、そこで恋人よ私は休もう。


17
あなたの声が私の傍にあったため私は彼に苦痛を与えた。私の手の中にあなたの手を再び握ったために。
 
それを償うことの出来る何の言葉もまた何の形もないーーかつて私の友であった彼はいま私にとって見知らぬ人だ。


18
おお、やさしいひとよ、あなたの恋人の語るのを聞け。友等が彼を裏切る時人は悲しむのだ。
 
なぜならば、その時彼は知らねばならぬから、友達が不信なことを。また彼等の言葉が一握りの灰になったことを。
 
しかし一人の乙女が彼の方へ静かに寄るだろう、そして彼を愛の道で静かに求めるだろう。
 
彼の手は彼女の滑らかな丸い胸の下にある。それによって悲しみをもつ人にやすらかさが来る。


19
全ての人々はあなたの前で偽ってさわぐのを好むからといって悲しむな。恋人よ再び平和であれ。ーー彼等にあなたを恥ずかしめることが出来るか?
 
彼等はあらゆる涙よりもなお多く悲しい。彼等の生活は一条の絶えない溜息として高まる。彼等の涙に傲慢に答えよ。彼等が否定するとおなじく否定せよ。


20
暗い松の林のなかで真昼に深い涼しい影の中で私達は横たわっていたい。
 
どんなに甘いだろう、そこに横たわるのは。また接吻するのは甘いことだろう。大きな松の林が廊下のようになっているそこで。
 
おまえの接吻が降って来る。髪の毛のやわらかな群がりの中の接吻は更にたのしい。
 
おお、松の林の方へ真昼に今私とともに行こう、やさしい恋人よあちらへ。


21
栄誉を失いまた友となる魂も見出さない彼は軽蔑し憤怒しつつ彼の敵等のあいだで、古風な高貴をたもっている。その高い交はりがたい者ーー彼の恋人のみが彼の仲間である。


22
そのように甘く私を虜にするものを思えば、愛する者よ、私の魂は消え失せそうだーーやさしさを私に求め、愛を私に求めるやわらかな腕。ああ、その腕がいつか私をそこにしっかりと抱くことが出来るなら、喜んで私は一人の囚人になるのに!
 
愛する者よ、交わされた腕のなかで愛によって震えるその夜は私を誘惑する。そこでは少しも私達を驚かせるものはなく、ただ眠りはもっと夢の多い眠りへつながり、魂と魂がとじこめられて横たわるばかり。


23
私の心臓の近くで羽搏をするこの心臓は私の希望と全ての私の財宝である。私達が別々にはなれた時は不幸で、接吻と接吻の間では幸福だ。私の希望と全ての私の財宝 ーーそうだ! ーーそしてすべての私の幸福。
 
そこに、苔の生えた巢の中で鶺鴒が色々の財宝を守っているように、私の眼が泣くことを覚える以前に私の持っていたこれらの財宝を私はしまっておいた。たとえ恋は短い間しか続かないにしても、私達も彼らのように、賢くはないだろうか。


24
静かに彼女は梳っている。彼女の長い髪の毛を。静かにそしてしとやかに、樣々の美しい唄をうたいながら。
 
太陽は柳の葉の中に、そして斑らな草の上に輝く。その間も彼女は梳っている、姿見の前で彼女の長い髪の毛を。
 
私は願ふ梳るのをやめるように、あなたの長い髪の毛を梳るのを。なぜなら私は美しい唄の中にかくれた魔法のことをきいているから。
 
それはここで歩いたり停まったりする恋人に、いくつものやさしい唄といくつもの投げやりを持つ全く美しいものとなって現れる。


25
軽やかに来、また軽やかにゆけ、たとえ心臓がおまえに不幸を予覚させようとも、谷と多くの焼け落ちた太陽のあるあたり、山の精はおまえの哄笑を走らせ、無礼な山の空気がおまえの翻る髪の毛全部に漣をたてるまで。
 
軽やかに、軽やかに、ーーそのようにして。夕暮れの時刻に下方の谷を包んでいる雲らは最も賤しい侍者である。心臓が最も重い時は、歌であらわされる愛と笑いだ。


26
やさしいひとよ、おまえは夜の七絃琴に聴き入る。やさしい婦人よ、一つの予言する耳よ。あの静かな歓びの合唱の中に、何の音がおまえの心臓をこわがらせるのか? 北国の灰色の沙漠からほとばしり出ている河の音のように思われたのか?
 
おまえのその気分は、おお臆病な者よ、それは彼の与えたものだ、もしもおまえがそれをよく考え直してみれば。魔術を使うような不気味な時間に我々に気狂い物語を語った彼ーーそしてそれはみな彼がパーチェスやホリンズヘッドの中から読んだ不思議な名前のせいだ。


27
たとえおまえのミトリダテスなる私が毒箭を防ぐように造られていようとも、でもなおおまえの心臓の魔力を知るために、おまえは気づかない間に私を抱きしめなければならぬ。そうすれば私はただ降服して、おまえの優しさの悪意を自白するばかりだ。
 
優雅な古風な言葉のためには、愛する者よ、私の唇はあまりにも賢く蝋づけられる。また私は、我々の笛を吹く詩人が厳めしくその賞讃をする恋も今までに知らない。また非常にわずかな虚偽もないような恋も私は今までに知らなかった。


28
やさしい婦人よ、恋の終わりについての悲しい歌をうたってはいけない。悲しみを傍へ押しやってそして過ぎてゆく恋がいかに満ち足りているかを歌え。
 
死んだ恋人等の深い永い眠りについてうたえ。そして墓の中ですべての恋はどうしてねむるかを。恋も今はもの憂い。


29
恋人よ、なぜあなたはそのように私をとり扱うのだろうか? 静かに私を責めるやさしい眼、あなたはなお美しい。
ーーしかしおおあなたの美しさはどんなに衣裳をつけていることか? あなたの眼の透明な鏡をとおして、接吻から接吻への軟い溜息をとおして、孤独な風らは恋の居る影の多い庭に叫びながらうちあたる。
 
まもなく恋は解け去るだろう、我々を越えて荒い風が吹く時にーーしかしあなた、親しい恋人よ、あまりに私に親しい人、ああ! なぜあなたはそのように私をとり扱うのだろうか?


30
過ぎ去った昔に、我々の所に愛の神がやって来た。一人が黄昏に臆病らしく弾いており、そして一人は怖ろしそうに傍に立っていた時に。なぜなら最初恋はすべてを恐れたから。
 
我々は慎重な恋人だった。その甘い時間を幾度かもった恋は去った我々が進むだろうと思はれる道を今最後に我々は歓んで迎える。


31
おお、それはドニーカーニーのそばであった。蝙蝠が木から木へ飛ぶ頃恋人と私が一緒に歩いたのは。そして彼女が私にいった言葉は甘かった。
 
夏の風が私のかたわらをさわがしい音をたてて進んだーーおお、幸福そうに!ーーしかし夏の呼吸よりも軟らかいのは彼女があたえた接吻であった。


32
終日雨が降っている、おお、果実のみのった樹等の間へおいで。葉等は記憶の道の上に推積している。
 
記憶の道にちょっとの間停まって我々は別れよう。来なさい、恋人よ、そこでは私はあなたの心を動かすかも知れぬ。


33
いま、おお今、かつて恋が甘い音楽を奏でたこの灰色の国の中を、二人は手を携えて逍遙おう、古い友情のために耐えながら、そしてかくの如く終わりをつげた我々の恋が華麗であったのを悲しむこともなく赤と黄の着物を着た小さな奴が、木を叩きそして叩いている。それから我々の孤独のまわりじゅうを風はたのしげに口笛を吹いている。樹の葉等ーー彼等は少しも溜息をつかない、秋毎に年が彼等をとり去っても。
 
いま、おお今、我々は最早聞かない、律詩も、円舞曲も! しかもなお我々は接吻しよう。恋人よ、日の暮れに別れをつげる前は悲しむな恋人よ、何事をもーーかくて年は年に重なってゆく。


34
さあ眠れ、さあ眠れ、おおお前、落着きのないものよ!(さあ眠れ)と呼んでいる声が私の心の中できこえる。
 
冬の声が扉口できこえる。(もう眠ってはならぬ)と、冬の眠りは呼んでいる。
 
私の接吻はいまお前の心に平和と静けさをあたえるだろうーーさあ安らかに眠れ、おお落着きのないものよ。


35
終日私は水の音の嘆くのをきく、独りで飛んでゆく海鳥が波の単調な音に合わせて鳴る風を聞くときのように悲しく。
 
私の行く所には、灰色の風、冷たい風が吹いている。私は遙か下方で波の音をきく。毎日、毎夜、私はきく。あちこちと流れるその音を。


36
私はきく、軍勢が国を襲撃し、膝のあたりに泡だてながら馬の水に飛び込む音を。傲然と、黒い甲冑を着て、彼等の背後に立ち、戦車の御者等は手綱を放し、鞭を打ちならしている。
 
彼等は闇の奥へ高く名乗りをあげる。私は彼らの旋回する哄笑を遠くできく時、睡眠の中で呻く。彼らは夢の暗闇を破る、一のまばゆい焔で、 鉄床 かなしき のように心臓の上で激しく音をうちならしながら。
 
彼らは勝ち誇り、長い緑の髪の毛をなびかせながら来る。彼らは海からやって来る。そして海辺をわめき走る。私の心臓よ、そのように絶望して、もう叡智を失ったのか? 私の恋人よ、恋人よ、恋人よ、なぜあなたは私を独り残して去ったのか?